知らないでは済まされない! 恐怖の水害事例【マンション編】

2021年10月1日

「マンションに住んでいる限り、水害の心配はない」—。こう考えている方は非常に多いでしょう。

いや、「多かった」というのが正しいでしょうか。

2019年10月、台風19号によって武蔵小杉(神奈川県川崎市)の駅周辺が浸水し、タワーマンション群が停電などの大きな被害を受け、機能不全に陥りました。

いわゆる「都市型水害」を考える時、原因としては大きく2つ挙げられます。1つは「外水氾濫」。つまり洪水です。川が決壊して、川の水が街の中に溢れてしまう。もう1つは「内水氾濫」で、これは下水の氾濫を指します。都市の地下を走る下水管の排水能力を上回る量の雨水が流れ込むことで、下水が逆流してしまうのです。マンホールの蓋が浮き上がってしまう映像がニュースなどでしばしば見られますが、内水氾濫はああいった状況を指すわけです。

武蔵小杉では、台風19号の豪雨を受けて多摩川の水位が上昇し、本来市街の排水を河川に流すための水門(排水樋門)から下水道に逆流したことで内水氾濫が起こったものと分析されています。

こういった氾濫の被害について、一見マンションの1階にさえ住んでいなければ大丈夫だろうと思いがちですが、高さのあるマンションであっても絶対安全ということはなく、マンションの設備と管理のあり方によっては水害に遭う可能性が十分にあるということ。まずはこのことを理解してください。

機械式駐車場の水害リスク

地下のスペースを使うピット式駐車場では大切な車が水没してしまう被害が続出

では、マンションでは具体的にどういった水害が起こり得るのでしょうか。

1つ目は、駐車場にまつわる被害です。マンションではしばしば、機械式駐車場が設けられています。複数の階層に駐車スペースが設けられ、機械装置より車の出し入れを行うものです。

機械式駐車場にはいくつか種類があるのですが、そのうち「ピット式駐車場」は水害の被害を受けがちです。上下に2?4台ほどの車を駐車できる仕組みで、下段は地下部分に収まっており、地上に部分に移動させて車を出し入れします。地方のマンションと違って都市部では敷地に余裕がないことが多く、1台分の敷地に複数台の車を駐められるピット式駐車場を設けるマンションが多いのです。

地下ということは水が流れ込む位置ですから、もちろん排水ポンプは付いています。マンションの管理組合の中にも、「うちは排水ポンプが付いているので雨が降っても安心です」と胸を張る方は多いです。

ところが、ゲリラ豪雨などでは排水が間に合わずに駐車場の地下部分が冠水し、車が水没してしまう被害が後を絶たないのです。

駐車場のポンプの排水能力がゲリラ豪雨の降水量に追いつかない!?

これはいったいどういうわけか。原因として考えられるのは、排水ポンプの排水能力が不足していることです。

駐車場の排水ポンプも含め、現在、一般的な排水ポンプは「1時間あたり50mm程度」の雨量までは対応できる排水能力をもっています。気象庁の定義によれば、この雨量は「非常に激しい雨」。傘はまったく役に立たず、滝のように降る雨、とされています。 そう考えれば排水能力としてはこれで十分ではないかと思いがちですが、この15年ほどで頻繁に起こるようになった「ゲリラ豪雨」の影響により処理能力が追いつかず、結果的に冠水してしまうという事例が多く見られました。

近年多発するゲリラ豪雨の降水量は従来の想定を遙かに超えている

それでは、ゲリラ豪雨の降雨量はどれほどのものなのか。ゲリラ豪雨は突発的、局地的、集中的な大雨を指してメディアが使用している通称であり、その降水量は明確に定義されているわけではありません。

参考までにいくつか数字をご紹介しましょう。気象庁の統計 によると、10分間あたり降水量の観測史上1位は、2020年6月6日に埼玉県熊谷市で記録された50mm。ここ数年のものに限れば、2014年6月12日に兵庫県丹波市柏原町で記録された39.5mm(観測史上6位)、2018年8月27日に東京都練馬区で記録された38.5mm(観測史上9位タイ)と数字が並びます。

なお、ここで重要なのは「1時間あたり」ではなく「10分間あたり」の降水量ということです。後者のほうが短時間に集中的に雨が降るゲリラ豪雨の実情を正しく表した数字となります。なぜなら、最初の10分間だけ30mm、その後50分間は10分間に1mmの雨が降った場合だとしても、1時間あたりの降水量は35mmと表され、現実と数字との間に乖離が起こる懸念があるからです。

仮に、「1時間あたり60mm」の降水量まで対応できる排水ポンプがあったとしましょう。これを10分間あたりの数字に換算すると、わずか10mmです。10分間あたり降水量の観測史上ベストテンに入る数字を例に出すのはいささか乱暴かもしれませんが、10分間あたり50mm、39.5mm、38.5mmというとんでもない量の雨を、「10分間あたり10mmまでなら対応可能」な排水ポンプが処理できるはずがありません。近年のゲリラ豪雨の降水量がケタ外れの量であることはおわかりいただけましたでしょうか。

激増するゲリラ豪雨に対し、ポンプの排水能力が間に合わない。ではどうするか。まずは排水ポンプの徹底的な清掃とメンテナンスです。ポンプにごみや枯れ葉が入らないようこまめに掃除をし、メーカーが推奨する年数を目安にポンプを取り替えるようにしましょう。加えて、駐車場内に水が入り込まないよう、駐車場の入り口に止水板を設置するのも有効な対策です。

これはかなり大がかりなことになりますが、機械式駐車場周辺の勾配を調整して相対的に駐車場の位置を上げてしまうという方法もあります。これによって機械式駐車場自体に流れ込む雨水を一定程度はコントロールすることが可能です。

大きな雨粒を障害物と誤認識してしまうケースも

それでもなお、車が浸水してしまう悲劇は起こり得ます。私たちが知る中で、こんなことがありました。ものすごい大雨が降り、居住者が車を出そうと駐車場に行って機械を操作しようとしたところ、大きな雨粒をセンサーが障害物だと誤認識したため、機械が作動しなかったそうです。結果的にその方の大切な車は浸水してしまったとのこと。こうしたことも機械式駐車場に車を駐める際のリスクと考えておくべきでしょう。

個人としてできる対策としては、自動車保険の見直しです。水害もカバーした車両保険に入ることで、経済的なダメージをいくらかは軽減させることができます。機械式駐車場を使用している方はぜひ検討してください。

管理室や電気室などのインフラにかかわるスペースは絶対に守らなくてはならない

電気設備が浸水するとマンションは機能不全に

マンションで起こり得る水害の2点目は、管理室や電気室の浸水です。冒頭に述べた2019年の武蔵小杉では、マンションの地下に設けられていた電気設備が浸水し、電気が使えなくなってしまいました。

マンションの電気系統を司る電気室、飲料水を貯めている受水槽、監視機能を持つ管理室、移動に必要なエレベーター、防災設備を収納した防災センター、こういったマンションのインフラ、ライフラインにかかわるスペースが浸水してしまうとアウト。

なのですが…電気室や受水槽室などは一般的にマンションの地下に設けられることが少なくありません。これらの施設を水害から守るには2階、3階、それ以上の階に置くのがベターではあるものの、マンションの分譲事業では全体の採算を考えるとできるだけ広い面積を居室として分譲したほうが良いため、地下に配置されることが少なくないのです。

短期、中期、長期の防災計画を立ててできるところから対策を講じるべき

ではどうすればいいのか。極論を言えば地下に水が入り込まないような工夫をするしかありません。具体的には、前述した止水板のほか、マンションの敷地全体をブロック塀と止水板などで囲うといった対策も考えられます。

ただし、これらの対策には多額の費用がかかります。管理組合の限られた予算の中で対策を打つには、いざ激しい豪雨に襲われた時に何があっても死守すべき場所、守れなくてもいい場所、と優先順位を決めることをおすすめします。その上で防災計画を短期、中期、長期に分け、例えば優先順の高い電気室や受水槽室は短期計画で、エントランスや管理室は中期計画で、敷地全体は長期計画で、といった形で考えていくといいでしょう。防災対策は「やるか、やらないか」「ゼロか、100か」という考え方ではなく、できることをできる時に少しずつでも進めておくことが大切です。

マンションの中庭、マンションの屋上が冠水!?

中庭の雨水貯留層が機能しなかった

こんなこともありました。3階、4階くらいの比較的低層のマンションが中庭を囲む形で数棟建っている建物で、中庭が冠水し、1階の住戸の玄関まで浸水したという事例です。

このケースでは、中庭での雨水の排水が間に合わず、敷地内に降った雨の逃げ場がなくなってしまいました。もちろん中庭に雨水を貯めておくための貯留槽は設置されていましたが、激しいゲリラ豪雨には耐えられなかったようです。

中庭の勾配を調整し、中庭から道路へ水が流れるようにする対策も考えられましたが、この建物のあるエリアはそもそも公共下水の排水状況に問題があり、行政と相談した結果同意が得られなかったと聞いています。こうした場合は雨水貯留層をもっとキャパシティのあるものに替え、雨水貯留槽が確実に機能するように、こまめにメンテナンスをするのがもっとも有効な対策でしょう。

清掃、点検を疎かにすると、屋上で冠水が起きることも

耳を疑うようなお話ですが、マンションの屋上が冠水し、屋上のから滝のように水が溢れ出てきたという事例もあります。

原因は、屋上の排水口が落ち葉や泥、ゴミなどで詰まっていたこと。排水口の点検を疎かにしていた上、このマンションには近所に木立が多く、吹き込んできた落ち葉が排水口に詰まっていました。日々の清掃、点検さえきちんとやっておけば防げただけに、大変残念な事例です。

また、大規模修繕工事で屋上の防水工事を行った際に、排水口のサイズが従来よりも小さくなったことが原因で屋上が冠水したという事例もあります。

ハザードマップでは予測しきれないマンションの水害

被害を最小限に抑えるには、損害保険の見直しも急務

驚かれるかもしれませんが、ここまでご紹介した事例は、必ずしも全てがハザードマップ(洪水ハザードマップ、内水ハザードマップ)で危険度が高いと示された立地で起きた事例であるわけではありません。

これはつまり、近年のゲリラ豪雨の前では、あらゆる場所でマンションの水害が起こる可能性があるということです。ハザードマップは更新されることもあるため定期的に確認しておくのは当然として、日常的な点検やメンテナンスを確実に行った上で、近年のゲリラ豪雨の降雨量を想定した対策をぜひご検討ください。

加えて、管理組合として契約している損害保険も要確認です。ハザードマップ上で浸水可能性が低いとされている立地であっても、管理室や電気室が地下に設けられたマンションであれば、水害の特約を付けておくべきでしょう。「うちは高台にあるから大丈夫」「うちは川から遠いから大丈夫」という考え方は、捨て去ったほうが賢明です。

※他の専門家コラムはこちらから

【コラム①(長嶋)】水害リスク・見るべき土地と自治体の情報とは
【コラム②(横山)】長年住んでいて水害がなかった場所でも、被害が発生する理由
【コラム④(田村)】知らないでは済まされない! 恐怖の水害事例【戸建て編)

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